逆境は回復の時

新城教会牧師 滝元 順

 「新しい年を迎え、希望に燃える一年が始まりました」と言いたいところですが、今年も暗い年になりそうです。景気も一向に回復の兆しを見せませんし、社会には考えられないような事件が頻発しています。現在の株価の低迷は、まさに死亡寸前の患者の血圧降下にも似ていて、日本の弱り切った姿を現しています。戦後日本は経済復興の中に真の回復と豊かさがあると信じ、ただひたすらに前進してきました。しかし、結果は見たとおりの崩壊です。
 数年前、ロシアを始めとする、東欧の社会主義諸国が崩壊しました。それは同時に資本主義の勝利宣言のようでもありました。しかし、現在、我々は「主義」の中に勝利者はいないことを経験し始めています。
 先日、経済アナリストの方とお話しする機会がありましたが、「日本の回復の為には国民の豊かさに対する根本的な意識改革が必要だ」と語っておられました。真の豊かさとは何でしょう。
 私は仕事上、イスラエルを訪問する機会が多いのですが、中近東の砂漠には、数千年も前から民族のライフスタイルを変えないで暮らしている、ベドウィンと呼ばれる遊牧民がいます。彼らは別に固定資産を持つわけでもなく、風向きと季節、そして家畜達の牧草を求めて砂漠を放浪しています。彼らは、やがて季節が巡って同じ場所に戻ってきたときの目印に、自分たちの家財道具の一部を砂漠に生えているアカシヤの木にくくり つけて去って行きます。誰かがその持ち物を持ち去るわけでもなく、家財道具の入った袋は砂漠の熱い風にいつまでもそよいでいます。
 子ども達は一日中、羊や山羊を追いながら、遠く地平線を眺めています。たまに通過する見知らぬ観光客に対しては、真っ黒に日焼けした顔から、満面の笑みをたたえていつまでも手を振っています。私達と比べると、文明から取り残され、近代社会から離れた生活のようですが、そこにはいつの間にか私達がなくしたものが存在している様な気がします。精神的な病等はないと聞きました。
 神は不公平がないように、人の持っている精神的資産と物質的資産の総量を一定にしておられるようです。物質を持ちすぎると精神的資産は減少し、物質が少なくなるとき、精神的資産は増大するかのようです。
 日本が今まで保ってきた物質的資産が崩壊しています。しかし、この逆境こそ、真に必要な精神的資産が回復する時でもあると信じます。

順境の日には喜び、逆境の日には反省せよ。これもあれも神のなさること。 聖書

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